境界を引く美女 月の巻

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それに対して男はこれといった特徴がない。 いや言うなればその目だろうか、常に険しい顔でもしているのか目尻に皺が寄っている。 唇は横一文字であるが、さして怖いようには見えない。 名を矢上 友介、まごうことなく人間である。 外の世界より拒絶され、幻想へとなり今は紫のもとにいる。 詳しくはおいおい話すだろう。 「今日も良い月だ。」 ふと矢上はそう言葉を口にした。空には確かに半分欠けながらも、雲の合間から見えるその月は感慨深いものであった。 「中々ね。」 紫はそう短く答えた。表情は扇で半分程隠しているが、まんざらでもないように見える。 「素直ではないな。」 「あら、これでも正直に言ったのよ?」 「ほぅ、そうか。」 「えぇ、そうよ。」 そこで一端会話は途切れ、二人してまた月を眺めていた。 「お酒が欲しいわね。」 次は紫から言葉を発した。それを聞いた矢上は呆れた顔をした。 と言っても少しの変化しかない表情だが。
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