境界を引く美女 月の巻

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「また酒か。」 「良い肴には良いお酒がつきものよ。」 と言った途端、扇を閉じ手前の空間に対して扇を横になぞらせるように進めると、そこに「スキマ」が出来た。 そのまま扇を持っていた逆の手をその「スキマ」に潜らせ、手探りをしているのか右へ左へと動かした。 そして目的の物を捕まえたのか、動きを止め「スキマ」から手を出すと、徳利と銚子が二つその手の中にあった。 そんな常人が見たら混乱しかけない光景を、矢上はさも当たり前のようにして見ていた。 が、銚子が二つあることに気づくと少し困ったような顔をした。 「なぁ、まさか。」 「たまには付き合いなさい。大丈夫、良いお酒は悪酔いなんてしないわ。」 矢上はむぅ、と言って少し迷った。そもそも彼は酒が苦手で下戸でもある。 更に昔、ひどい悪酔いをして胃の中のモノを全て戻した事もあった。
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