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この世に確かな愛情なんてない。
「この恥知らずっ!!」
渇いた音がし、少女の幼さが残った顔に、父親の分厚い手が張られる。
「お前、また警察に補導されたそうだな。お前が問題起こす度に、私がどんな目で見られると思ってんだっ!!」
鬼の形相をした父親が、娘である少女に怒鳴り散らすが、こんな諍いは日常茶飯事だと彼女は解り切っていた。
だから怯える事も落ち込む事もなく、少女はただ父親を睨みつける。
「なんだその目は?!お前に反省する気持ちはないのか!?」
激情に任せ、無造作に伸びた髪を乱暴に掴みあげた父親に、思わず少女・涼風(スズカ)はカッとなった。
「ってぇーなっ!!放せよ、クソ親父!!」
涼風は眦を上げ、父親の胸元を掴み上げ、父娘は掴み合いとなってしまう。
「父親に向かってなんだその口の聞き方は!?」
「うるせぇ!!こんな時だけ父親面してんじゃねーよ!余所に女作ってるくせに!!」
何年も前から父親は、夫婦生活に飽き、職場の部下と不倫関係になっている事を涼風は知ってる。
家庭の事など返りみず、いつしか父親の心は家族への愛情を失っていた。
「うぜーんだよ!!恥知らずはテメェのほうだろーが!!」
「なんだと!?」
逆上した父親が再び手を上げ、弾けた音がして涼風の頬は赤く染まる。
「クソ親父っ。テメェなんて死んじまえば良いんだっ!!」
張り裂けんばかりに怒鳴った涼風が、父親に殴りかかるが、それまで空気のように傍観していた母親が、顔色を変えて飛び込んで来た。
「やめなさいっ!!お父さんに何するの!!」
殴りかかろうとした娘を突き飛ばし、父親を庇う母親に、涼風は更に苛立つ。
夫の不倫を知りながらも、夫に依存し逆らえない母親。
「どうして貴女はそんななのよ!?なんで、普通の子に育ってくれなかったのよ?!」
泣きながらヒステリックに叫び散らす母親、そして苛立ち睨みつけて来る父親。
嗤えるくらいに壊れた家族に、自分の居場所は何処にもなかった。
どんなに娘が道を踏み外そうと、彼らは自分の事しか頭にない。
そんな両親の姿に憤りを感じ、涼風は夜の街に飛び出して行く。
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