第一話

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この世に確かな愛情なんてない。 「この恥知らずっ!!」 渇いた音がし、少女の幼さが残った顔に、父親の分厚い手が張られる。 「お前、また警察に補導されたそうだな。お前が問題起こす度に、私がどんな目で見られると思ってんだっ!!」 鬼の形相をした父親が、娘である少女に怒鳴り散らすが、こんな諍いは日常茶飯事だと彼女は解り切っていた。 だから怯える事も落ち込む事もなく、少女はただ父親を睨みつける。 「なんだその目は?!お前に反省する気持ちはないのか!?」 激情に任せ、無造作に伸びた髪を乱暴に掴みあげた父親に、思わず少女・涼風(スズカ)はカッとなった。 「ってぇーなっ!!放せよ、クソ親父!!」 涼風は眦を上げ、父親の胸元を掴み上げ、父娘は掴み合いとなってしまう。 「父親に向かってなんだその口の聞き方は!?」 「うるせぇ!!こんな時だけ父親面してんじゃねーよ!余所に女作ってるくせに!!」 何年も前から父親は、夫婦生活に飽き、職場の部下と不倫関係になっている事を涼風は知ってる。 家庭の事など返りみず、いつしか父親の心は家族への愛情を失っていた。 「うぜーんだよ!!恥知らずはテメェのほうだろーが!!」 「なんだと!?」 逆上した父親が再び手を上げ、弾けた音がして涼風の頬は赤く染まる。 「クソ親父っ。テメェなんて死んじまえば良いんだっ!!」 張り裂けんばかりに怒鳴った涼風が、父親に殴りかかるが、それまで空気のように傍観していた母親が、顔色を変えて飛び込んで来た。 「やめなさいっ!!お父さんに何するの!!」 殴りかかろうとした娘を突き飛ばし、父親を庇う母親に、涼風は更に苛立つ。 夫の不倫を知りながらも、夫に依存し逆らえない母親。 「どうして貴女はそんななのよ!?なんで、普通の子に育ってくれなかったのよ?!」 泣きながらヒステリックに叫び散らす母親、そして苛立ち睨みつけて来る父親。 嗤えるくらいに壊れた家族に、自分の居場所は何処にもなかった。 どんなに娘が道を踏み外そうと、彼らは自分の事しか頭にない。 そんな両親の姿に憤りを感じ、涼風は夜の街に飛び出して行く。  
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