第一話

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『なんで、普通の子に育ってくれなかったのよ!!』 母親の叫びが耳に響き、涼風は眉をしかめながら夜の町を駆け抜ける。 なんで普通の子に? そんな事、自分だって知りたい。 「クソババァ。ならなんで、普通の家族でいてくれなかったんだよっ!!」 堪らず叫んだ涼風に、道行く人々は怪訝げな表情を向けて来る。 その視線がうざくて堪らず、彼女は威嚇するように怒鳴り散らす。 「何見てんだよ!!ぶっ殺されてーか!!」 何も知らないくせに、腫れ物でも見るような目を向けやがって。 そんな爆発しそうな感情が溢れ出し、心がざわつく。 「どいつもこいつも、死んじまえっ!!」 そう忌ま忌ましげに吐き捨て、喧騒な表通りから静寂な路地裏へと姿を隠す。         † 普通の家庭に生まれていたら、自分は両親の望む、普通の子でいられたのだろうか? 道を踏み外す事なく、両親と暖かい会話をし、幸せな家庭で笑っていられたのか。 だが、そんなの叶わぬ夢だ。 どんなに記憶を遡ったって、仲良く笑う両親の姿なんてない。 政略結婚をした両親の間に、本当の愛情なんて最初からなかった。    冷えた家庭、それがお誂えの言葉で、涼風が暴走族へと足を踏み出したのも、至極当然の流れみたいだった。 「よぉ涼風」 路地裏を歩いていた彼女に、軽そうな男が声をかけて来る。 以前、町で知り合ったナンパ男だった。 「一人か?暇してんなら遊び行こうぜ」 気安く彼女の肩に手をかけて来た男に、涼風は余計に苛立ち、男の手を振り払うと胸ぐらを掴みあげる。 「うるせぇんだよ!!二度とアタシに近付くんじゃねぇ!!」 「ひ、ひぃぃ!!」 冷たく鋭い眼で凄まれ、男は悲鳴をあげて逃げて行く。 「くそっ!!」 なにもかもが苛立ち、涼風は八つ当たりまぎれに壁を殴りつける。 殴った拳が擦りむけ、赤い血が滲む傷口がズキズキと痛み、それが益々、苛立ちを膨れ上がらせた。 「……ちくしょうっ。ちくしょう、ちくしょうっ!!くだらねぇんだよっ、くそがぁぁぁっ!!」 壊れそうになる心が、このやり切れない理不尽な世界への憤りを叫ばせる。 無意味な事だと解っているのに、心は叫ばずにいられなかった。  
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