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『大丈夫だよ。なんとか持ちこたえたから』 母からの連絡に張りつめていた糸がぷつりと切れた。 電話を切った後、私は立ちくらみを起こしてへたってしまっていた。 病室に入ると鼻を突くアルコール臭。 消毒用アルコールではなく、まさにお酒の匂い。 父から発せられるものだった。 肝機能低下によってアルコール分解が間に合わないからだよと、母が教えてくれた。 一番辛かったのは 母だったのかもしれない。 母は看護士で、父の病のことも詳しく知っていたし、何よりも父の命の期限もこの時に知っていたからだ。 私達には曖昧に『次の吐血が最後』としか教えてくれなかったから… この年はあの地下鉄サリン事件があった年で、一時退院から病院に戻る父は『またサティアンに戻らなきゃいかんのか』とぼやいていたことを思い出す。 父の命の期限―それはこの年から僅か5年ほど後のことだった。
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