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父には内緒だといわれていたのだが、私は家族がバラバラなってしまうことがとてつもなく嫌で、父と2人で飲みにいくたびに父を説得していた。 実は母は父に嫌気がさしたわけではなく、父が倒れるのを見たくないという気持ちの方が強かったのだ。 飲み歩いて午前様の父。眠っていても、病院にかつぎ込まれたという連絡があるかもしれないという不安。 そんな毎日を結果5年も続けていた。 私だったら気が狂ってしまうだろう。 5年― この年は夏に寝たきりだった祖母が他界し、死というものに初めて直面した年だった。 人は必ずいつか死ぬものだけど、すごく嫌で、胸が引き裂かれる思いを初めて知った。 火葬場で、煙になる祖母を父とぼんやりながめていた。 『ねぇ、お父さん?』 思わず口にした言葉。 『死んじゃやだよ』 なぜそんなことを言ったのかはわからない。 ただ、無意識に呟いていた。 父は優しい笑顔を見せただけでなにも喋らなかった。 蝉がうるさく鳴いていた。 それから4ヶ月。 私はたまたま免許の書き換えで実家に帰ってきていた。
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