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病棟に移動した父に会う前に、担当医から説明を受けなければならないので私達はICU横のカンファレンスルームへ通された。
父の病状は現状維持すらできないということ。
ゆっくり死に向かって行くのを黙って見ているしかできないということ。
私達はもともと母から言われていたので、取り乱すことなく冷静に受け止めていた。
母はともかくとして顔色一つ変えずに【死】という言葉を受け入れた子供たちに医師も驚きを隠せなかったようだ。
なにせ私達に再度確認を取ったくらいだからだ。
『次の吐血が最期だっていわれてましたから』
上の弟がそう答えた。
でも本当は、みんな否定したかった。
全部悪夢であって欲しかった。
目が覚めたら、いつもの元気でおバカなことばかりやっている父が笑ってる。
そうあって欲しかった。
父に会うには準備が必要だった。
父がいるのはICU。
感染症に厳重に注意するため、まず入り口で手洗いして消毒液をつける。
そしてその脇の小さな部屋に入り、白衣・帽子・マスクを着用する。
髪が長い人はここで束ねて、さらにまた消毒。
そしてやっと入室できるのである。
父のもとへ行くと、手足がベッド柵に固定されていた。
『身体拘束条例の関係もあるのですが…暴れてチューブを外してしまうと命に関わりますのでご了承ください』
看護士が申し訳なさそうに母に告げた。
母は軽く会釈をし、父の横に立つ。
『ほら、すぐ会えたでしょ?』
私は笑顔で父の手を握る。
父の手はいつの間にかきれいになっていた。
医療機器に囲まれ、いくつものチューブに繋がれ昨日の姿はどこへ行ってしまったのか?
時計の針はすでに日付を越えていた。
つい数時間前まで普通に話し、普通に過ごしていたのに今は、こんな無機質なベッドに横たわり、機材に囲まれている。
やっぱり夢じゃないか?
ベタに頬をつねってみて、やっぱり現実なんだと落胆する。
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