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あまり長居はできないからと、母が帰宅を促した。
父の表情に陰りが出る。
不安で仕方ないのだろう。
刻々と迫る自分の死期を感じながら、ここで家族と離れてしまったらもう二度と会えない。
そんな予感を感じていたに違いない。
父はすでに言葉を発することができなくなっていた。
父の訴えかけるような瞳が痛かった。
握りしめる手に力が入る。
まるで帰るなと言わんばかりに…
辛かった。
できることなら側についていたかった。
でもそれは規則だからできない…
『また明日来るから、待っててよ』
私は泣きそうなのを笑顔で隠して告げた。
…おばあちゃん。
お父さんを連れていかないで下さい。
どうしようもない人でも、
私のたった一人の
大好きなお父さんなんです…
父の意識があったのは、この日までだった…
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