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「……てなかんじでお前は何にも覚えてなかったんだ。」
一通り話し終わった隼人は口を閉じる。
「…………。」
何も言わない雪乃の頭にポンと手を置く隼人。
しかし雪乃は俯いたままだった。
自分にそんな事があったなんて全然知らなかった。
家族だけでなく、たくさんの人に迷惑をかけていた。
自然に紐を握っている手に力が篭る。
「ゆきは無事に帰ってきたんだ。それが親父や俺には一番良かった。……だからそんな顔するな。」
隼人の優しいその言葉、手から伝わる温かさに心が救われる。
「隼人……。ありがとう。」
ようやく頭をあげ、隼人に笑いかけた雪乃。
その瞬間。
ズキンと雪乃の頭に痛みが襲った。
そして体が焼けるように熱い。
「っ……痛……!」
雪乃はあまりにも突然すぎる衝撃に、苦痛で顔を歪ませる。
「ゆき?!どうした?!……うっ!」
隼人は急に苦しみだした雪乃の肩を抱くと同時に、隼人の頭にも鋭い痛みが襲う。
『宗ちゃーん!歳も近藤先生も早くー!』
『これ、私にくれるの?ありがとう!歳、大好き!』
二人の頭の中で響いたのは、幼い雪乃の声。
その声が痛みに拍車をかける。
そして声が消えた瞬間、一番大きな痛みが二人を襲った。
その大きな痛みに耐え切れず、二人は同時に意識を手放した。
痛みで固く目を閉じてしまっていた二人には、雪乃が握りしめていた緋色の紐が、淡い光を放っていた事に気がつかなかった。
――運命の時がやってきた。
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