一章:平穏と不穏

3/12
前へ
/31ページ
次へ
霞んだ視界の中で、小さい時の自分が映っている。 それは小学校低学年ぐらいの幼さ。 これは夢?自分の記憶? しかし、記憶にしては明らかにおかしな点が幾つもある。 まず周りが山や緑に囲まれて、綺麗な川もある。 それは見るからに長閑(ノド)かな“田舎”と思える景色。 私は東京生まれの東京育ち。 こんな田舎に行った覚えなんて全くないよ? そして一緒にいる人達。 霞んではっきりと顔が見えないが、若そうな男性二人と、同じ年頃だと思われる背丈がい引男の子が一人。 何故か三人共、男物の浴衣みたいな服装や袴姿をしている。 なにこれ……、コスプレ? 全く覚えがないんだけど。 ……ってことは夢? 四人はどこかに向かっているようだった。 そして暫く歩いていると、大木の下に着いた。 その木は花がついてない為、何の木なのかはわからないがとても立派な木。 何故かその大木には見覚えがあった。 そして彼らと楽しそうに話し、はしゃぐ自分を見てどこか懐かしいような、暖かいものを感じる。 そう思った瞬間。 ズキンと頭に鋭い痛みが走った。 そして痛みが強くなると比例するように、視界がゆっくりと遠ざかっていく。 ダメッ、まだ見ていたいのに! 何もわからないままなんて……! しかしその想いは届かず、先程の光景は消え、真っ暗な闇が広がった。 そして彼女は本当の眠りに落ちた。  
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

327人が本棚に入れています
本棚に追加