第1話-榮花学園-

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『え、オリエンテーション?』 「はい」 姫蝶は緑に案内され、ひとまず自室で紅茶を飲んでいた。 ふと、緑にここの生徒の姿が見えない訳を尋ねたら、その答えはオリエンテーションだった。 『新入生向けの研修か。…にしては、上級生の姿もないけど?』 「新入生だけでなく、全校生徒を含めた交流研修となっております」 さすがは榮花学園、と言ったところか。 どうやら、入学後すぐに学園内での社交が始まるらしい。 『いつ学園に帰って来るんだ?』 人で混み合う前に、何とかしてここを抜け出したい。 姫蝶はまだ諦めていなかった。 「おそらく現地での状況によると思いますが、予定通りなら学園専用の国際線で明後日夕刻に帰国かと」 …国際線? 帰国? 『待て…まさか研修地は、海外…?』 「?はい」 …それはオリエンテーションとは言わない。 修学旅行と言うものだ。 姫蝶は心の中でツッコんだ。 『あの西園寺とかいう者は、参加しなかったのだな』 「西園寺様は、御家の方で御用がおありになられたそうで、今回は不参加です」 『そう…。あ、紅茶おいしかった。ありがとう』 姫蝶がそう言うと、緑は嬉しそうに微笑んだ。 食器を直すため、緑はワゴンを押してキッチンへと入って行く。 (…さて、) フゥ、と小さく息をつく。 豊春がここの理事長であること。 先ほどは驚いてしまったが、落ち着いて考えれば、それが何だというのだ。 (要するに…叔父上は、自分の庭に私を置きたいということ。) 庭らしい庭なら、喜んでそこの花の世話でも何でもしよう。 …けどこの庭(榮花)は何か嫌だ。 学園内と外には、数人の使用人と警備員たち。 あと、光。 生徒たちの帰国が明後日なら、作戦決行はー……明日。
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