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抜け出すと言っても、私服では生徒だとバレて支障をきたすおそれがある。
こういう、校内に生徒が不在の時に必ずいる者…
『すみません』
「え?あなたは…」
『臨時で来ました。作業着を貸していただけませんか?』
清掃員。
「あらやだ、ここのお嬢様かと思ったわ~」
中年の女性は、姫蝶に快く清掃員の控え室の場所を教えてくれた。
近くの小さな洋館がそれで、姫蝶はそこで作業着に着替えた。
『すみません、大門はあちらの方角ですか?』
庭師の年配の男性は、優しい笑顔で答える。
「ああ、あっちだ。あんた随分若いねぇ」
『新人なので』
お礼を言って別れると、大門のある方角へと向かった。
…はずだった、それから数十分後…
『…ここ、どこ』
庭なのか森なのかわからないような所で、姫蝶は迷子になってしまった。
確か、ここを抜けると大門への道があったはず。
昨日ここを通った時の記憶を必死に思い出す。
せっかく順風満帆に来たというのに、ここで折れては元も子もない。
姫蝶は腕を組んで策を講ずる。
…その時
ガサッ
『!』
近くのバラの茂みから聞こえた音に、バッと顔を向けた。
「あれ、君ー…」
長身の男が、バラの香り漂う風と共に現れた。
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