第1話-榮花学園-

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何なのだろう。 何故こうも邪魔されるのだろう。 狙ってるわけじゃあるまい。 なのに、何故。 姫蝶は苛立ちで震える拳を抑えながら、機械的に車へ顔を向ける。 『はい?』 「ここへ」 男の落ち着いた声が、側へ来いと中から呼ぶ。 普段の姫蝶なら絶対に従わない。 けど、今は清掃員。 逃げるために走り出すには、まだ距離が学園に近すぎる。 『何か?』 姫蝶が近づき、顔を合わせた男ー…藤代 清治。 少し伏せている切れ長の目。 品のある顔立ちと、怜悧な頭脳の持ち主だと一目でわかる雰囲気を纏う。 仕草の綺麗な指が、眼鏡の端に触れる。 「見ない顔だな。名前と経歴は?」 一瞬、姫蝶はピクリとする。 けれど、冷静に慎重に答える。 『臨時雇いです。名は、田中と申します』 とっさに浮かんだ偽名は、ありきたりな名字。 本名を明かすわけにはいかないので仕方がない。 とにかくこの場を切り抜ければ学園を出れる。 姫蝶は、ただ相手の応答を待った。 「そうか」 藤代の答えに、ホッと胸を撫で下ろす。 が 「嘘だな」 『!?』 見抜かれてしまった。
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