第1話-榮花学園-

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寮にはすでに生活必需品やら服やら何やらの荷物が全て届けられていた。 送り主は豊春。 もちろん姫蝶自身の洋服をあっさりと送ってくれた、なんてことはなく 箱を開ければキラキラフリフリヒラヒラ…。 生徒会全員が揃い顔合わせにもなる今日は夕食を一緒に取るのが決まりだ。 だけど、姫蝶があの男たちの前で自らそんな格好をするはずもなく 『緑さん、申し訳ないけど服貸してくれる?』 緑に頼み、気が進まないながらも緑は使用人部屋から姫蝶に言われたとおりの服を持ってきた。 「あの…華月院様」 『?何』 着替えながら、姫蝶は顔を上げる。 「申し訳ありませんでした」 『…何のこと?』 わかっているのか本当に知らないのか。 姫蝶の表情から読み取ることはできないが、緑はひと呼吸置いて明かす。 「華月院様の様子・行動を報告しておりました」 『西園寺に?』 「…豊春様にもです」 『そう』と姫蝶はあっけらかんと答えると、乱れた髪のゴムを解いてまた三つ編みに結い直した。 『いいのか?それ私に教えても』 「…お叱りは後で受けます」 緑は、なぜ自分から告げたのかわからなかった。 辞めさせられるかもしれないことはわかっているのに。 これまで仕事は全て完璧にこなしてきたのに。 ただ、今まで仕えた者たちとは異なるタイプの姫蝶に、自分の何かを少し変えられてしまった。 緑はふとそう思った。 『別にもういいよ』 姫蝶の言葉に、目を見開く緑。 『私に付く前に、叔父上たちに言われて従ったわけだろう?それは正しい』 「ですが…」 『解任もしないからそのままで。報告義務も続行でいい』 『ただ、』と付け加える。 『たまに嘘ついてって頼むから。それはお願いね』 そう言うと、姫蝶は光たちの待つ洋室へと向かった。 緑は頭を下げると、すぐ後を追いその背中を見つめた。
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