後悔 降りしきる悲しみの雨─橘 翠─

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 そして数年── 修行と勉学に励んだ翠は学生から陰陽師となり、更には陰陽寮の長官、陰陽頭にまでなっていた。実力は確かなもので、ある程度の怨霊相手ならば負けることはまずない。容姿も良く、それなりの地位もある。出身はあまり地位は高くながらも貴族の橘家。男としては申し分ない。だがあの日から彼は変わった。夏苑の死とその悲しみから逃れるかのように勉強と修行に没頭して陰陽師となり、そして陰陽頭となってからは“孤独”を拒むように女性を口説き通す日々。  「学生時代と大分変わりましたわね、翠様。何故ですの? あの頃は真面目過ぎるくらい真面目でしたのに」 「……真面目なのはね、疲れるのだよ。けれど真面目過ぎるくらい真面目でなくては陰陽師になどなれない。あの頃は余裕が無かっただけのことだよ」  自室で相手をしていた女房に問われ、彼は数秒間を開けた後に答えた。  「ま、過去は過去さ」  閉じた扇を口許に沿えて微笑む翠。  「確かにそう、ですわね……。  ……あら、いけない。わたくし、まだ仕事が残っておりますので失礼しますわ。では、また……」  「付き合わせてしまってすまなかったね。では、また」  翠は軽いお辞儀をして部屋を出て行く女房を見送る。  「……」  部屋に一人になった翠は御簾を上げて空を眺めた。  「夏苑……」  空にもう逢うの無い恋人の姿を描いて呟く。  「私はあなたも、親友も守れなかった。誰かを守るために陰陽道を学んだはずなのに……私は……無力だね……」  誰かを守るために陰陽道を学んだ翠。だが、守れなかった二つの命。今までで唯一愛した女性と、無垢の親友。二つの死は彼の心に深く刻まれ、彼の“心”を、そして“時”を“過去”で止めていた。  そんな“彼”の“心”の“時”が再び動き出すのは数年後。その時、未来に自分が誘(いざな)われる物語を、その先にある“救い”を彼はまだ知らない───             終                                                        「私が白虎の……強さの八葉だなど……そんなことがあるはずが……」            “もう、縛られないで……”       完
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