名も知らぬお前に捧ぐ旋律―西院雨音―

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 時折夢の中に現れる幼女。  曇りのない笑顔の、菫の女。    『雨音ちゃん』    その笑顔で俺を呼ぶんだ。    『   』    夢の中の幼い俺はアイツの名を知っていて  俺もアイツの名を呼ぶ。  だが──……  「クソッ……どうして起きると覚えてねぇんだよ!」  目が覚めると忘れてしまう。夢の内容もアイツの名も。  なのにあの夢を見た後はいつも思う。あれは夢なんかじゃなく……  「記憶……」  忘れられた記憶なんじゃないか、と。  夢の中の、何処か、懐かしい声の幼女。  覚えているのは『ピチャン』、と言う水音と  静かなメロディ……  菫の女が歌っていた曲のメロディ。  『~♪♪』  あやふやな記憶を頼りにフルートを吹く。講演の最後に、タイトルすら知らぬ曲を。  そうすることで名さえも知らないアイツに届く気がした。  別に会いたいわけじゃねぇ。  夢の中の俺と現実の、今の俺は違いすぎる。    それでも    「忘れられねぇんだよ……あの、笑顔だけは」    ねがわくば……  このフルートの音が  名も知らぬお前に届くよう──……
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