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「土方、沖田……山南さ、ん……皆……すま、な、い……」
私は既にしっかりと物の数や形が把握出来ないくらい視界が霞み、酷く朧げな意識の中で呟き、そのまま目を閉じる。
そのすぐ後、水溜まりを踏みながら駆け足で近付いて来る複数の足音を聞いた気がしたが私の意識はそこで闇の中へと落ちて行った。
***
「っっ、ん……?」
私は意識を取り戻して、ゆっくりと目を開いた。広い天井が見えた。どうやら、ここは室内のようだ。私が意識を手放したのは屋外、それも町外れの林だったはずだから、誰かが私をここへ運んだことになる。おそらく、意識を失う直前に聞いたあの足音の主たちだろう。
「どうやら、命は助かったらしいな……」
足音の主たちが敵か、それとも味方か。どちらの可能性も捨てられないが。
私はそのそのまま顔を動かして周りを見た。
私が横になっているのは広い畳みの部屋のようだ。正直、何もない。壷や花瓶、掛け軸等があるだけで飾り気がほとんどない部屋だ。
掛け軸の下には刀が置かれている。あの掛け軸には見覚えがある。描かれているのは龍と虎。そして風に凪ぐ竹だ。
「──!」
掛け軸やこの部屋の物の配置には見覚えがあった。
私は体を起こした。右脇腹に痛みが走るが、それを無視し、改めて部屋を見る。
「やはり……」
間違いない。ここは壬生屯所の一部屋だ。
私がよく使っている、あの部屋なのだ。
ならば、足音の主は隊士たちだったのだろう。彼らがあの場で手当をし、私を運んだ。
私は掛け布団を退かして、傷を負った場所にそっと手を触れた。
「痛(つ)……」
さほど激しくはないながら、痺れるような痛みが私を襲う。死を覚悟したくらいだから当たり前だが、相当な深手を負わされていたようだ。
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