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ランスロットは買い物帰りの老婆をお庭に呼び出して殴りました。ストッキングにくるんだ煉瓦で頭を数発。女はすぐに動かなくなりました。
わたしの愛しい恋人は、二人の恋を守るため、自らの母親に手をかけたのです。なんて深い情愛でしょう。
これから先どんな人生を歩んだとして、彼、または彼女ほど、わたしを愛してくれる人間など現れやしない。性別も常識も飛び越えて、二人は二人を愛していました。
わたし達はかたくなった老婆をまたぐようにして走りました。ボーリンのお家に仕える庭師に、老婆の死を知らせるために。
「お買い物帰りのママが躓いて転んだ拍子に頭を強く打たれたの。血を流して倒れているわ。はやく救急車を呼ばなくちゃ!」
彼女とわたしは早口でそうまくし立てました。じっくりと考えた上でのそれは台詞でしたけれども、今思えば途方もなく拙い脚本に過ぎません。
あの時もっと周到で、緻密な脚本を描いていれば、わたしは今でもボーリンと、仲むつまじく寄り添っていられたかもしれない。
少年院を出たわたし達に待ち受けていたのは、「二度と遭わない」という非道な約束と、まったく別々の人生でした。
創作の道を歩めたのはわたしだけで、ミステリー小説を書きながら今でも時々、煉瓦を振り上げる彼女を想うのです。
※参考:マジソンズ博覧会内「殺人博物館」
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