流れるもの、その根源

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それは、田園地帯の田舎町でした。町を囲うように麦畑が延々と広がり、極めて長閑な何の変哲もない町でした。 その町の宿屋に、1人の若い娘が一晩宿をとり、翌朝には宿を立ち、昼には町からも立ちました。それはやたら人の顔を覚える宿の主人と、町の入り口近くの柵の修理をしていた男が証言しました。 取り立てて美人とゆうわけではなく、整っているが華がない顔立ちの女でした。印象の薄いとでも言いましょうか。 しかし、たちまちの内にその娘の話は町中に広がりました。 宿の娘の泊まった部屋のベッドの下から、赤ん坊が出てきたからです。町の人々は、色んな噂話をしました。なにせ小さな町ですから、大事件なのです。 一番慌てふためいたのは宿の主人です。赤ん坊を抱えたまま、右往左往しました。まだ臍の尾がだらり、と垂れて、赤い血が所々乾いて黒ずんで貼り付いている赤ん坊は、可愛いとはとても言えません。主人は道徳的観念から赤ん坊を抱えてましたが、正直気色悪くて放り出してしまいたくなりました。妻をもってない主人はようやく教会のシスターの所に駆け込み、赤ん坊を預け安心した後に町中にこの話を広めたのです。
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