その四

12/33
前へ
/425ページ
次へ
馬鹿にされる、と思って身構えた私の手を、裕貴は引く。 「ほら、見えるだろ。あそこが俺の学校」 「…は??」 てっきり『あんな冗談気にしてんじゃねえよ』とか何とか言われると思っていた私は、予想外の裕貴の言葉に情けない声を出した。 途端にしかめ面を浮かべる裕貴。 「は??、じゃねぇだろ。あそこが俺の大学だって言ってんだよ」 言われるがままに裕貴の指差す方向を見ると、たしかに背の高い建物が横断歩道の先に見えた。 「あ…ああ…近いんだね」 「便利だろ」 言って裕貴はさっさと信号が青になった横断歩道を渡る。 あまりに何事もなかったかのように振る舞う裕貴に少し腹が立ったが、下手に掘り返してまた何かされても嫌だから、私も黙って裕貴のあとを追い掛けた。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加