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彼は細い目をさらに細めて笑う。
「抜け出しちゃわない??二人で」
「…はあ??」
あまりに唐突な文弘の言葉に、思わず声がもれた。
さっき来たばかりなのに。
それに、今さっき知り合った人と抜け出して何をするっての??
しかし、文弘はかまわず続ける。
「浩紀となのはを二人きりにさせてやろうって言ってるんだよ。浩紀のためにさ」
「私、そんな義理ないし」
それをしてなのはも喜ぶならまだしも。
なのはは裕貴が好きなのだから、別に浩紀と二人きりになっても嬉しくもなんともないだろう。
めんどくさいし。
私のその言葉に、文弘は明らかに不機嫌そうな表情になった。
「なんだよ、この俺が誘ってやってるのにさ」
…何様??
呆れる私の手を、文弘はがしっとつかんで立ち上がった。
「どうした、文弘」
「悪い、俺達意気投合しちゃって。抜けるわー」
「えーなんでー」
なのはが不満げな声をだす。
「悪いって。じゃーな」
そして、驚きで抵抗も忘れる私を無理やり引っ張って外に出た。
クーラーのきいた店内から蒸し暑い外にでて、私はやっと我に返った。
「なにすんの、離してよ」
「やだ」
振り払おうとするも、浩紀は私の手を強く掴んでいて振り払えない。
「二人きりにしてあげたんだから、もういいでしょ」
すると、文弘はにやっと意地悪く笑ってこちらをのぞきこんできた。
「わかってるくせに」
「なにが」
私がにらむと、文弘は声をだして笑った。
「とぼけちゃって。そんなん口実に決まってるじゃん。ついてきたからには、俺に付き合ってくれるんだろ??」
「あんたが無理やり連れてきたんでしょっ」
あんまり自分勝手な文弘の言い草に、私は腹立たしい気持ちをこめて掴まれた手をぶんぶんと振った。
すると、彼はその掴んだ腕をぐいっとひいて、私のもう片方の腕も掴む。
私は驚き、後ずさろうとするが、文弘の掴む力が強くて動けなかった。
こわい――
裕貴にセクハラされてるときは、全然平気だったのに。
私は恐怖を紛らわそうと、ぎゅっと目をつぶった。
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