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そのとき。
「こんな女のどこがいいの」
突然耳をうつ、聞き覚えのある低い声。
文弘の手が手首から離れ、うしろから誰かに抱き寄せられる。
もう、誰の登場かほとんどわかっていたけれど。
私はなんだか認めたくなくて、ゆっくり目を開く。
「よう、俺からはぐれてデートとは、いいご身分だな」
案の定、そこで私を片手に意地悪く笑うのは、裕貴だった。
安心感で、おもわずもれる安堵の息。
…って、え、何裕貴に安心感なんて抱いちゃってんの!!
私はその安心感をごまかすように、あわてて裕貴の腕のなかから飛び出した。
裕貴はそれを気にする様子もなく、文弘の方に向き直った。
「なに、裕貴の知り合い??」
間抜けた文弘の言葉に、口端をもち上げうなずく裕貴。
「ああ。ちょっとお守頼まれててな。こいつは諦めてくれ。もっといい女他にいるだろ」
「ちょっと、おもりって―」
反論しようとしたのに、片手で口を塞がれる。
「んー、んー!!!!」
裕貴の手から逃れようと必死でもがく私を横目に、文弘は言った。
「えーおれ、礼芽ちゃんがいいな。いいだろ??」
「だめだっつってんだよ」
裕貴のそのかたい声に、私は驚いて動きを止めた。
さっきまで、ふざけ半分なかんじでしゃべってたのに。
見上げると、それまで笑顔だった顔が真顔になっている。
「なんだよ、なにマジになってんの」
裕貴が発する威圧感に若干冷や汗をたらしつつ、なおも食い下がる文弘。
しかし、裕貴は顔をしかめて言った。
「しつこいやつだな。はやくどっか行けよ」
「つまんねーの」
ちっと舌打ちをひとつ打ち、文弘はどこかへ去っていった。
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