その四

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…………。 忘れてた。 私は、注文したしょうが焼き定食を食べる手を止め、相向かいの席を見る。 「裕貴くーん、やっほー」 「次授業あるのー??」 「ねえ、遊びに行かない??」 うん、すっかり裕貴がもてること、忘れてましたよ。 しかもそもそもそんな女子の視線が疎ましくて逃げ出したことを、忘れてましたよ。 さっきから、裕貴の席にひっきりなしに女の子がやってくる。 声をかけずに、熱い視線を送りながら横を通り過ぎるだけの子もちらほら。 そして、そんな女の子たち全員が、私を見て 『なんだこの女』 って顔をする。 ………。 私だっていたくてここにいるわけじゃないやい!!!! 皆さん明らかに、聞きたいけど怖くて聞けないご様子。 もしそれ聞いて「彼女だ」なんていわれちゃったらショックだもんね。 はっはーんだ。 彼女じゃないしっ!!!! 敵視する前に、聞けよ!!!! 私はイライラむかむかするのをこらえて、すでに冷めかけている定食に向き直った。
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