その四

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私があとひとくちで定食を食べ終わろうかという頃、やっと女の子の波が途切れた。 裕貴はかるくため息をつき、今までまったく食べられなかった自分のお昼に手をつける。 「いつもこんななの??」 だったら、疲れるよなぁ。 私はしょうが焼き定食の最後の一口を食べ終えてから、裕貴にたずねた。 裕貴は口に含んだうどんを飲み込み、返事を返す。 「いや??」 「うそだぁ」 「ほんと。いつもは声かけてくんのは二、三人だけ。たぶん、お前の存在が気になるんじゃない??」 ええ?? じゃあ、私が疲れさせてるんじゃん。 食堂は相変わらず人でごった返している。 またいつ私と裕貴との関係を探ろうと、女の子が来るか知れない。 裕貴から離れたほうがいいかも。 そう思い、立ち上がろうとした、そのとき。 裕貴が私の手をがしっとつかんだ。 「え??」 予想外の裕貴の行動に、驚く私に裕貴は言う。 「行かなくていいよ」 「え??え??」 なんで私が立ち去ろうとしてることわかったんだろう。 私はその驚きで、ここから離れようとしていたことを忘れた。 「なんで…」 私の言葉に、裕貴はうどんから顔をあげずに答える。 「わかるよ。お前の考えてることくらい」 まさか。 私、会う人会う人みんなに、「何考えてるかわからない」って言われるのに…。 半信半疑で黙り込む私に、裕貴は顔を上げてもう一度言った。 「わかるっつってんだろ」 裕貴のその真剣な表情に、私は思わず視線を落とす。 知らないよ、そんなこと言われても。 突然訪れた真面目な空気に戸惑って何て返事をしていいやらわからない私は、ただうつむくばかりで、裕貴はそんな私に構わずお昼をひたすら食べ続けていた。
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