その壱

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「とにかく、いかないからねっ。断ってよ。だいたい私男じゃないから無理じゃん」 私の言葉に今度はお母さんがため息を落とす。 「言っても「うそだ、騙されない」ってきかないの。がんこじじいなのよ」 「嫌だああ。どうすんのっ、性転換手術とかさせられたら。私にはたぁちゃんがいるのに!!」 たぁちゃん。 本名、 田辺太一(たなべたいち)。 私の最愛の彼氏デス。 お母さんはけらけら笑ってこたえた。 「大丈夫大丈夫、おやじ、そういうの思い付きもしないから。いいからちょっと行って女だってこと証明して帰っておいで。おじいちゃん孝行だと思って」 むむう。 私はまだしぶる。 「…大学は??」 「あんたいつも休んでるようなもんでしょ。それにもうすぐ夏休みだし」 うう、親から大学休学許可がでたのは嬉しいけど。 気が重いなぁ…。 私は今20歳。 お母さんが勘当されたのも20歳。 お母さんが勘当された年齢で、当主候補(多分すぐ破棄)として恩賀崎家へ行く、のかぁ。 なんか、運命を感じる。 …悪い意味で。 「わかったよ、行く。行きます」 私がやっとうなずいたのは、話し合いから二時間もたったころのことだった。
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