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いや、明海さんは決してにらんでいるわけではない。
少し離れた場所でほほえんでる。
ただ、その笑顔のオーラが真っ黒なのが問題。
大問題。
直視しまったせいで、私にも海大くんの震えが感染した。
「なぜ、この時間に、こ、こ、に、いるのかしら…?」
『ここに』をことさら強調させて言う明海さんに、涙目になる海大くん。
「えーっと、それは、えーっと」
海大くん。
キミのお母さんは言い訳なんて望んでいないんだよ。
言いたくても、声を出してあの閻魔大王が私の存在に気づいてしまってはたまらない。
私はただ震えて見守るのみ。
意味不明な言葉を言い続ける海大くんに向かって、明海さんは一歩を踏み出した。
「ひいいっ!!」
海大くんの悲鳴で私の悲鳴がかき消される。
明海さんは、最大級に黒い笑顔をみせて、言った。
「ぶつぶつ言ってないで、はやく、行、き、な、さ、い」
「は、はいいいいいいっ!!!!」
言うやいなや、海大くんはものすごい速さで消えていった。
残されたのは、明海さんと、裕貴と、隠れて覗く私。
ば、ばれないうちに避難……
そう思ってそろりと後ろに後ずさったところで、明海さんがこちらを向いてにっこりほほ笑んだ。
ひいいいいいっ!!!!!!
ばれてたっ!!!!!!
思わず尻もちをついた私に特に何をするでもなく、明海さんはその場を立ち去った。
「んじゃ、帰ってからな」
裕貴も私が襖の前にいることをわかっているのだか、それだけ言って玄関の方へ去って行く。
た、助かった……。
しかし、なんで恩賀崎家にはこんな恐ろしい女性ばっかり(というより、『しか』)いないんだろう…。
私はしばらく恐怖から立ち上がれずにその場で震えていた。
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