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「あれー…」
「どしたの、あや」
黙ってついてきてたたぁちゃんが、立ち止まった私にたずねた。
うーん、と…
客間、どう行くんだっけ。
おととい無理やり裕貴に今の部屋へ連れてこられたから、客間までの道が全然わかんない。
てゆーか、広すぎだろ、この家!!!!
私たちはちょうど縁側を歩いていたのだが、困ってあたりを見回す。
と。
「あ」
庭の手入れをする三美子さんが目に入った。
「三美子さーん」
私が縁側から声をかけると、しゃがんで草をむしっていた三美子さんがひょいっと顔を上げる。
そして、にっこり笑顔をみせた。
「朝からうるさいですね」
イラッ
笑顔の私の額に、青筋が立つ。
いけない、いけない。
この人の暴言は、愛情表現だ。
私は笑顔をキープしたまま言った。
「申し訳ないんですけど、客間まで案内してもらえませんか」
「…めんどくさっ」
おい。
素、今、絶対素で言ったよ、この人。
固まる私を尻目に、三美子さんはやれやれとばかりに立ち上がり、はめていたゴム手袋をはずした。
そしてたぁちゃんの方を見やる。
「あれ、さっきのお客様…」
三美子さんのつぶやきに、たぁちゃんは慌てて頭を下げた。
「あやと一緒に滞在することになりました、田辺太一です!!よろしくお願いします!!」
体育会系の大声で言うたぁちゃんに、三美子さんは笑って返事をする。
「ああ、そういうこと、なら早く言ってくださいよ」
おい、私のためだと面倒で、たぁちゃんのためなら面倒じゃないんかい。
腹を立てつつも、ここで食いつくのも不毛なので、私は三美子さんが縁側に上がるのを黙って待った。
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