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「いいよ、気にしてないし。てか、あやがそんなに慌ててるとこ初めて見た」
え…??
いいの??
気にして…ないの??
たぁちゃんの言葉に若干違和感を覚えつつ、私は言葉を返す。
「慌ててるとかじゃなくて、その…あ、ここトイレだよ」
「ほんとだ。よし、いっこクリアだね!!」
再び明るい調子に戻ったたぁちゃんの声色で、この話はなんだかうやむやになって流れてしまった。
******
30分後。
適当に、でも道を戻らないように屋敷内をまわった結果、私たちはトイレと、風呂場の他に居間にたどりついていた。
「ここ、ご飯食べるとこだよ」
私の言葉にたぁちゃんはうなずく。
あ、もしかしたら、雛子さん台所にいるかも。
そう思って居間の隣にある台所をのぞくと、案の定雛子さんがそこで昼ごはん作りにいそしんでいた。
「雛子さん」
私の声に、包丁を持ったまま雛子さんがぱっと振り向く。
ちょ、包丁こわい。
置いて。
私の心の声が通じたのだか、雛子さんは包丁をまな板の上に置き、笑顔でこちらへ近寄ってきた。
「どうかなさいました??」
「えっと、新しい同居人を紹介したいんです」
私の言葉に合点したように雛子さんはうなずく。
「ああ、ご当主から聞いていますわ。…こちらのかた??」
雛子さんが笑顔でたぁちゃんの方を向いたことで、たぁちゃんは赤面して慌てて口を開いた。
「た、田辺太一です!!お世話になります!!」
「雛子です。もう三美子には会ったかしら??」
雛子さんがたずね、たぁちゃんは大きくうなずいた。
「そう、それなら話が早いわ。私と三美子は双子なんです。私が炊事、買い物担当で、三美子が掃除、洗濯担当。よろしくね」
雛子さんの説明に、たぁちゃんはまたもやぶんっと音が鳴らんばかりにうなずく。
なんでそんな気合入ってんの。
雛子さんは呆れる私の方へ向き直って言った。
「それじゃ、私はごはん作りに戻っていいかしら??」
「あ、はい、邪魔しちゃってごめんなさい」
私が言うと、雛子さんはふふっと笑った。
「いいえ。じゃあ、またお昼の時間に。とびきり美味しいご飯を作りますから」
言って、背を向ける雛子さん。
私たちもこれ以上邪魔にならないよう、黙って台所から退出した。
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