虚構の事実

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「お腹空いたね」 この荒野を歩き始めてから、凛子の方から話しかけられたのは初めてだった。 「お、おう 寝る所も探さないとな」 白紙のようなこの何も無い大地に住居などなく宿泊施設なんてあるわけがなかった。 2人の影は長くなり、太陽は半分ほど沈んでいた。 「私達、どうなるのかな」 そう言いながら、前を歩いていた凛子が一粋の方に振り向く。 凛子の表情が一変するのに気付く、それと同時に後ろからのただならぬ気配を感じた。 「……わっ、後ろっ!」 凛子の言葉と同時に、いや、少し早いぐらいに一粋は振り返った。 黒い狼、黒豹、2人が知っている言葉で表現するならそれが一番近い。 しかし、確実にその2つよりまがまがしい姿の動物が猛烈な速さで向かってくる。 一粋が振り返り終わった頃には、それはすでに飛び掛かり宙に浮いていた。 こんなにも鋭利な動物の牙があるのだろうか。 人間が作り出した、刀剣にも負けず劣らずの輝きを放っていた。 避ける事が出来るはずもなく、瞬間的に手で顔を覆う事が一粋には、最善策だった。 凛子にも、これからどんな結末が起きるのか、安易に想像出来た。 その時、一粋の手の甲に刻まれた紋章が強く輝く、この時、この瞬間を望んでいたと言わんばかりに。
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