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「さて、今日も仕事か」
疲れで、潤滑油が必要な体を無理矢理動かし、身支度を始める。
「痛っっ」
鈍い音と共に顔を歪ませた。
どうやら、小指をタンスにぶつけたようだ。
「今日もついてねぇ……くそっ」
定期入れを掴み上着のポケットに入れた、その定期券には、『シロイイッキ』白井一粋と片仮名で表記されていた。
見慣れた道、見慣れた駅、見慣れた電車、そして見慣れたドアが開く。
いつもと何一つ変わらず、逆に何か変化が欲しくなるほど、当たり前になっていた。
「ねむ……。」
ドンッと座席に座ると一粋はすぐに眠りに着いた。
ところが、3駅ほど通りすぎた頃だろうか、深い眠りに入りそうになった瞬間、電車の急ブレーキの耳を裂くような爆音に目を覚ました。
「ん?」
車両内の電気は消えていたが、他の乗客たちは、平然と雑談やうたた寝を続けている。
「え…… あれ?」
隣の40代ぐらいの女性に声をかけても、一向に返事は無く、一粋の姿、いや、存在事態ないように見える。
電車が急ブレーキをかけ、真っ暗になり、電車が異常事態を起こしているのは、一粋だけに起こっている事のようだった。
「いや、なんだよこれ。俺の姿皆に見えてない?」
一粋の思考回路がショートしながらも、必死に理解し、整理しようとしていた。
夢だと決め付けかけようとしていたその時、隣の車両から視線を感じた。
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