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落胆と諦めが同時に襲ったような声を出し、一粋はドアに寄りかかるように座りこんだ。
その時
「わ、わ、わ、うわ」
ドアが、確かにそこにあったはずのドアが存在しなかったかのように消えてしまった。
当然、一粋は外へと転げ落ちた。
「おーい、大丈夫?」
暫らくして、
「大丈夫じゃねぇつの」
半ば、恥ずかしがりながら一粋が返事した。
「うわ、なんだこれ」
何かを発見したのか、何かが起きているのか、女性には、外が暗闇に染まっているせいか一粋の状態が分からない。
「え、どうしたのー?怪我でもした?」
(な…こっから落ちれば、普通するだろ)
と、本心は言わなかった。
「手が……手が光ってる。ちょっとあんたも降りてみてくれ」
女性は、高さはそんなに無いだろうが、何せ30センチ先も見えないほどの暗闇だ、心の準備が必要だろう。
「うわ、気持ちわりいなこれ」
その時、横で石の崩れる音がした。
「ど、ど、ど、どれ?」
思った以上に恐かったのか、声が震えていた。
可愛くも見えるその恐がり様に一粋は、鼻で笑いながら応える。
「あんた大丈夫かよっ」
「そんな事より、光ってないじゃない。」
自分の手に目をやると、ついさっきまで妖しげにぼんやりと発光していたはずの手は、何一つ変わらないいつもの両手に戻っていた。
「あれ、おかしいな。さっきまで」
両手を勢い良く振ってみるが、反応は無い。
納得がいかないのか、必死にやっている一粋をよそに、女性はカバンを開け何かを探している。
「はい、これ貼って」
膝を擦り剥いていた、一粋に絆創膏を差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
なんて、準備が良いんだと驚きながらもその優しさが嬉しかったのだろう。
素直に受け取った。
絆創膏を痛々しい傷口に暗闇で良く見えないながらも、目を凝らし必死に貼っている。
「そういえば、自己紹介まだだったよね。私、桃山凛子」
こんな場面で、真剣に自己紹介してくる彼女に多少驚いた。
「あ、あぁ、俺は、白……」
途中まで、名前を言い掛けたその時、2人の後方にあった電車が崩れ、いや、崩れるというよりは
100年それどころじゃない何千年という月日が一気に経過したと言った方が当てはまる。
そこに存在する役目を果たしたかのように。
「うお、危ねっ」
「きゃ」
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