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荒野の中、聳える漆黒の城。それからは禍禍しい魔の力が流出していた。
ここは、人間には生きることの出来ない闇の支配する世界――。
城内。内部までもが闇色。松明がぽつぽつと僅かな光りを生み出している。
長い廊下を歩く影が一つ、大広間に向かっていた。
「来たか……」
大広間の奥、荘厳な椅子に座り、城と同色の髪とドレスを纏う、厭らしくも美しい女。
「御呼びでしょうか」
その女の前にまで歩み寄り、跪く男。
男はこの世界には似つかわしくない、肩までの癖のあるオレンジの髪、赤い瞳という鮮やかな色を持っていた。纏う黒いコートに、それらはいやに映える。
「ほう……暫く見ないうちに、随分と美しく成長したものだな」
男をマジマジと見た女はそんな言葉を零し、ゆっくりと立ち上がる。そして段差を降り、男のすぐ前に立った。
「立て。エイル」
「はい」
男、エイルは立ち上がる。スラリとした細身の長身。女は、エイルの胸元に身を寄せた。
「髪を切ったのだな」
「はい……」
女は顔を上げ、エイルの頬に掌を添える。引き寄せ、薄く形の良い唇に口づけた。
「久しぶりだ。お前にこうするのも」
再びエイルの胸板に擦り寄り、女は目を閉じる。
「長かった。あの小娘のせいで、私は千年という時を無駄にした。今回呼び出したのは他でもない、あの小娘を魔族に引き込め。もし奴も目覚めていたのなら……逆らうのならば、殺せ」
「仲間として欲する程の力を持つ女なのですか?」
「この私を長い眠りにつかせたのだ。間違いなく、今の人間界では最強……我等魔族の脅威」
「分かりました……」
命を承知したエイルに、女は満足したように妖しい笑みを浮かべた。
「期待しているぞ」
「行って参ります」
女が離れると、エイルの姿は瞬間的に消え去った。広い闇の空間に残された女の笑い声が、高らかに響いた――。
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