序章

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   時は1710年、徳川六代将軍 家宣の頃。  槍のように聳える山の中腹に絢爛豪華な社があり、それを取り囲むように八百万の妖が蠢く。  その大半は、人語を理解しない下妖だが社の入り口を守る二体は、その妖気で人を殺せる程の強者である。  その山肌を、二人の人間が登って来た。  一人は男。  極限まで鍛え上げられた屈強な肉体を有し、縮れた長い髪を無造作に後ろで束ねてる。  それは、侍のそれとは違う。  現代で言う所の作務衣のような衣に、手甲とすね当てをしている。  一人は女。  小柄で美しい丸みを帯びた白い顔は、成熟した大人の色香を漂わせている。それと、腰まで伸ばした黒髪が絹を思わせるしなやかさだ。  まるで、公家の娘のよう。  神社の巫女のような、それでいて祈祷師のような白い装束は、神々しさに満ち光を放つようだ。 「玄幽齋さま、あれほどの妖の群が……」 「ふんっ、物の数では無い」  玄幽齋と呼ばれた男が一歩踏み出すと、百鬼夜行の如く妖怪達が押し寄せる。
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