須賀 加奈子

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春。 大学を卒業と同時に高校時代から6年間続けたバイトを辞めた。 大きな情報機器会社の地元の支店に就職。 新規一転、フレッシュマン…のはずなのに、気分は重く、なにもかもがうざったくてたまらなかった。 1週間の研修を終えて、正式に配属された部所は営業課。ここで営業アシスタントと事務を兼任する。 「須賀 加奈子です。よろしくお願いします」 当たり障りのない挨拶をこなし、笑顔で他の社員さんの自己紹介を受けるけど上の空。早く帰りたい。 「じゃ、他の部所案内するね」 引率してくれる上司の後ろを歩く。ふと、爽やかで甘い、それでいて色気のある香りが鼻をくすぐった。意識しなければわからないほどの微かな残り香。 「おぎわら主任、香水の使い方お上手なんですね」 荻原主任が振り向いてくすりと笑う。 「俺のことみんな初めはハギワラって読むんだよ。だからちょっと意地悪してまだ自己紹介してなかったんだけど……社員証見てすんなりオギワラって読む子は珍しいよ。賢いんだね。香水、彼氏も何かつけてるの?」 「いえ……そんな人いません」 「あ、そうなの?もったいない」 指輪を付けた左手で手摺りをにぎり、階段を上る。後ろ姿が『あの人』に似てると思った。
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