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「トシ、すまねぇな」
「何言ってんだ、近藤さん」
土方は口の端をあげ、緩やかに笑みを作る。
「アンタの仕事は俺の仕事だ。だからそんなこと言わなくていいんだよ」
「トシ・・・」
うるうると近藤の瞳に涙がたまっていく。『あ、くるな』と思った土方の足が下がったが、無駄だった。
「うォォォ!トシッ!」
「わっ!」
近藤が土方に飛びつき、がっちりと土方を抱き締めている。
「トシ、トシ!お前は何ていい奴なんだァァ!」
「・・・そんなこと言うのアンタくらいだよ」
この人ぁ本当に人がいい。
こんなに人がいいと誰かにつけこまれるかもしんねぇ。
あー、心配だ。
「何を言う!そんなことはないぞ!隊士たちもお前のことが好きに決まってる!絶対そうだ!」
土方はガクガクと近藤に肩を揺らされるままにされていた。揺れの激しさに頭がぐらぐらする。
「こ、近藤さん、ちょっとこれ気分悪いんだけど」
「トシ!俺はお前を信頼してるからな!お前が大好きだからな!」
揺れが止まったと思うとまっすぐに見つめられ、そんなことを言われた。
土方の目が大きく見開かれ、やがて眉根を寄せ目を伏せる。
「・・・ああ、俺もだよ、近藤さん」
「トシーっ!!」
ガバッとまた抱きつかれるが、土方はなすがままになっていた。そうして近藤の腕の中で目を瞑る。
近藤さん、俺ぁ、アンタが心配なんだよ。
アンタがいい人すぎて、まっすぐすぎて、心配なんだ。
「近藤さん、がんばってこいよ」
──────心配だ、自分が。
こんなにもアンタのことを心配してしまう自分が。
「うんうん、ありがとうな、トシ」
アンタに何かあったら、俺は何をするかわからない。
「近藤さん・・・」
近藤の腕の中は温かかった。
この人の心みたいだ。
ただ、いるだけで温かい。
あの男とは全然違うな、アンタは。
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