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俺が聞きたかった返事はそれじゃない。
そんなことも知らずに沙夜は何かをしている。
目の前の草をかき分けて。
「沙夜さ、俺のこと名前とか名字で呼んだことある?」
廉のことは東條って呼んでた。
松本晴希って奴は名前で呼んでて…。
俺は沙夜に、なんて呼ばれてるんだろう。
そんな、どうでもいいような些細なことが気になっていた。
「…?ないかも」
「………」
だよな。
‘水野’とも‘将弥’とも、呼ばれた記憶はなかった。
「四つ葉…ここにはないのかな」
俺が黙り込んでいると、沙夜はつぶやくようにそう言った。
その言葉でようやく、さっきから沙夜のやっていた行動の意味が分かる。
「放課後、会うんじゃねーの」
ぶっきらぼうに、言い放つように冷たく俺は言った。
沙夜はきょとんとしている。
少し考えるような仕草をして、分かったというように顔をあげた。
「晴希のこと?それなら、杏が行ったし大丈夫かなって」
そう言って四つ葉を探すのは諦めたのか、沙夜は俺の隣に座り直す。
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