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そんな力蔵を尻目に太郎達が無駄話をしていると、教室の扉がガラガラと音を立てて開いた。
「おっ、兄貴の奴来やがったな」
「ウチらにどんな反応するか楽しみやで♪」
そう言って美花はニヤニヤと笑った。
しかし、教室に入って来たのは冴えないメガネの名前すらよく覚えていない先生だった。
「えー皆さん。飯塚先生の事ですが、突然昨日退職しました」
『えっ!?!?』
先生の話を聞いた瞬間、クラス中の生徒が思わずそう声を出した。
「おっ、おい次郎!どういう事だよ!?」
「おっ、俺だって聞いてねーよ!!先生!なんで辞めたんですか!?」
次郎は戸惑いながらメガネの先生にそう尋ねた。
「君は弟なのに聞いていないのかい?飯塚先生は、なんでも東京でお笑いコンビを組んでた相方から『もう一度頂点目指そう』との電話があったとかで、退職願いを出した後すぐさま東京に行ってしまいましたよ」
先生からそう説明を受けた途端、クラスの生徒達はだんだん状況を理解してきたらしく、ザワザワと喋り出した。
「残念だなぁ。あの先生面白いから好きだったのに」
「俺も~」
「でもそのうち、テレビで見れるようになるかもね~」
太郎達の耳に、一部の生徒のそんな会話が入ってきた。
「そういや最初一郎先生が来た時、次郎が『お笑い芸人になるって東京に行ってた』とか言ってたな」
「んっ?あぁ、そうだな……」
太郎の質問に、次郎はそう答えた。
「元気ないやんか次郎?これでアンタの青春は守られたんやで?」
「いやっ、兄貴がいなくなったら神崎にボコされる回数増えるなーなんて……ははっ」
「なんや、そんな事かいな。安心せぇや、ちゃんとボコしたるから!」
「いやっ!それが嫌だから落ち込んでんだよ!」
そう言って次郎は、不安そうな顔をしながら怒った。
「なんだかんだで次郎君、ホントは一郎先生がいなくなって寂しいんだろうね♪」
次郎と美花のやり取りを見ながら、木実がそう太郎に耳打ちした。
「そうかもね。それにしても迷惑な先生だったなぁ。今頃東京で何してんだろうな」
そう言って太郎は、教室の窓の外を眺めた。
こうして次郎の兄・一郎は風のように現れて、風のように去って行ったのだった……。
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