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聴覚が麻痺している。
ただ触覚だけが敏感に研ぎ澄まされていく。
これが夢か現か解らなくなる。
サラサラ、しなやかに今視界の左端で動くレンの手。
ドクン、ドクン、と一打一打が大きく強く波打つ鼓動。
今私が何か行動を起こしたらどうなる?
レンはどんな反応をするの?
私は恐る恐る、やけに重く感じる左手を持ち上げ、髪を撫でるレンの右手にそっと重ねた。
温かい。
レンは髪を撫でる手を止めた。
レンの黒目が私を捕らえて離さない。
『…レ、ン。』
声が途切れる。
「ん…?」
なんて優しい声なんだろうと私は思った。
レンを狂おしいほどに愛しく感じ、子宮の辺りが熱く痛む。
重ねた手の指を絡ませて、照れくさくて微笑んだ。
『レンの手、大きいね。』
いつも思ってた、と付け加えるとレンは、
「真水の手が小さいだけだよ。」
と悪戯に笑う。
それからゆっくり上体を起こし、髪から手を引いた。
つられて私の手も机の上でレンの手に手を重ねる状態となり、レンはペンを机に置きあいた右手で私のその指をなぞるように触れた。
「テストやだ。」
私の視線は左手へと向けたまま。
『一緒に頑張ろ?』
「じゃあ教えてよ。」
『良いよ。』
教室は何ら変わらず、私とレンなんて始めから存在しなかったんじゃないかというほど、もしくはさっきの一連の流れの間は私たち以外時でも止まっていたんじゃないかというほど。
私は本当に時が止まってしまえば良いと思った。
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