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「そっちの刑事さんはどう? 私は狂っていると思う?」
「――えっ!? あー、と。いや、どうかな」
カマルはハッと我に返ると、あたふたとして質問に答える。
目線をあちらこちらに泳がせる彼は、お世辞にも警察官には見えない。
尤も、警察としての威厳など、もうこの場には存在しないのだが。
「狂っている、という表現は適切ではないと思う。君は質疑応答もしっかりとしているし、言ってる事にも一応の筋は通っている。悪戯に捜査を攪乱させようとしているようにも見えない」
だから、とカマルは続ける。
「狂っている、訳ではない、と――俺は思う」
私とは違いしっかりとした持論で答えた彼の言葉に、マナは「そう」と短く呟いた後――。
「ありがとう。刑事さん、優しいのね」
形の良い唇をにっこりと持ち上げて、魅惑的な笑みをカマルに向けた。
途端にカマルの顔が茹でられたように赤くなる。
そんな彼に対して私が睨みを利かせると、それに気付いたカマルは咳払いをして慌てて平静を装った。
「ふふ。うふふふふ」
私達のやり取りを見て、少女はまた楽しそうに笑っている。
目を細めただけの彼女の笑みは、最初からずっと本気で笑っている訳ではない。
ずっと作り物だ。
意図的に口角を持ち上げて作って見せているだけの、偽物の笑みだ。
カマルはそんな少女の笑みを、ちらちらと横目で盗み見る程に虜になっている。
これこそ異常とも言える光景に――。
私は頭痛を感じていた。
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