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女性警察官も同じように息絶えていた。
だが彼女の場合は頭を撃ち抜かれて死んでいる。
恐怖に満ちた表情が生々しく、そして痛々しい。
カマルの遺体の側に、少女にかけられていた手錠が落ちていた。
サーレルは唇を噛み、見開かれた二人の目を手で閉じてやる。
そして署内に響き渡るくらいの大声を張り上げる。
「警察署内で職員が二人も銃で殺されてるってのに、お前ら何やってんだ!! 誰も気付いてねえってのか!? 犯人は銃を持って逃げてやがんだぞ!!」
誰もいない廊下で叫ぶ。
しかし誰一人として、廊下に出てこない。
人の気配がまるでない。
まるでこの警察署内が無人であるかのようだ。
そんな事はあり得ない。
署内に職員が一人もいないなど、一体どんな不祥事だ。
これは本当に現実なのか。
否、そもそも何故自分も彼らがいなくなった事に気付かなかった。
銃声さえも聞こえなかった。
廊下で誰ともすれ違わなかった事に違和感さえ覚えず、各部署の部屋の扉から誰かの話し声や動く人の気配さえ感じなかった事に、何故気にも留めなかったのだ。
吐き気がして、眩暈がして、頭痛がする。
尋常ではない状況に、どっと汗が噴き出る。
薄ら寒いものを感じる。
異常事態だ。
心臓がかつてない程に速く鼓動を打っている。
これが現実でない筈がない。
カマルのまだ温かい遺体の感触も、流れた血も、女性警察官の恐怖に染まった死に顔も。
全て現実だ。
全ては今、ここで起きている。
「――あのガキ!」
サーレルは少女を追い掛ける決意をした。
署内に人が誰もいないという異常な状況の答えなど、後で考えればいい事だ。
今はまず犯人を確保する事が何よりの先決。
例え彼女が犯人でないのだとしても、行方が知れない被疑者を野放しするという手はあり得ない。
銃を手に元来た道を暫く行くと、最初に通ったドアが少し開いていた。
サーレルは銃の状態の確認をしっかりと行うと、無言のままドアを勢い良く開けて銃を構えた。
「――っ!!?」
そしてサーレルは目を見開いて驚愕した。
ドアを開けたその先は――見知らぬ世界だった。
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