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「な、な、なんなんだ、お前は。い、いいいったい、どういう。そ、それにここは」
サーレルは年甲斐もなくガタガタと恐怖で震えている。
傍から見ればさぞ滑稽に見える事だろう。
だがパニック状態の彼に、自分を客観的に見る余裕などなかった。
「お~やおや。先程いらっしゃった方とは随分と違いますなぁ」
ウサギは首を左右に二、三度傾けた。
と、いうよりも錆び付いた絡繰り人形のようにガクガクと揺れているだけのようにも見える。
「さ、先程来た奴?」
ウサギの言葉に、サーレルは徐々に自分を取り戻していく。
「えぇぇ? 誰の事で~すかぁぁ?」
ウサギはふざけた口調で、とぼけた事を口にする。
「お、お前が今言ったんだろ! さっき来た奴とは違うとな!!」
サーレルはウサギの燕尾服の胸ぐらを掴んで詰め寄った。
感情を昂らせる事で恐怖を打ち消し、冷静になろうとしているかのようだ。
「あぁぁ。はいはぁい。わかりま~した。わ~かりました。お教えしますよぉ。しますってばぁぁ」
ウサギは鬱陶しそうにそう言って、消えた。
「!!」
途端サーレルの手は空を掴む。
「先程いらっしゃった方とは~、金色の髪で赤い瞳を持った少女の事で~すよぉぉ。これでいいですか~ねぇぇ?」
また後ろからウサギの声が聞こえた。
――マナ・マッケリング!!
「そいつはどこに行った!!」
「あっちのよ~なぁぁ。こっちのよ~なぁぁ」
振り返って問い詰めると、ウサギは右を指したり左を指したりした。
その態度に怒りを爆発させて、サーレルは怒鳴り声を上げる。
「どっちだッ!!」
「さぁ~てねぇぇ。どっちでしょ~かねぇぇ」
ウサギは惚けたように焦点の合わない目玉をぎょろぎょろと動かす。
「教えろッ!!」
サーレルは銃口をウサギに向けて噛み付くように恫喝する。
「そんなにお知りになりたいのなら、ご自分でお探し下さい。お客様」
ウサギは急に目玉の焦点をサーレルに合わせると、ふざけた口調をやめてそう告げながら姿を消した。
すると、ウサギが消えた場所に三つの扉が音もなく現れる。
それは何の変哲もない木製の扉で、ドアノブだけが金色に輝いている。
「自分で、探せだと――?」
「こ~の扉の向こうはぁぁ、そ~れぞれ違いま~すがぁぁ、最終的に行き着~く先は~一緒ですぅぅ」
何処からかウサギの声が聞こえたが、周りにはウサギの姿など何処にもなかった。
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