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「――私の、病室?」
光が収まり、慣れた視界に飛び込んできた光景は、アリスにとってはもはや家よりも馴染みのある病院の一室だった。
清潔感あのあるベッドが一部屋に四つ並んでいる中の、カーテンで仕切られた角の空間。
そこがアリスが、幼少期より何度も入退院を繰り返している生活スペースだった。
「どういう事?」
周りを確認してみても、やはりここはアリスにとって何の変哲もない日常の風景でしかない。
時に必要不可欠となる呼吸器がベッドの横に置かれている所まで、完全に再現されている。
窓に近付いてカーテンを開けると、外はまだ夜明け――いや、暁だった。
「――意味不明」
アリスは疲れたようにベッドに腰掛ける。
激しい運動など出来ないアリスは、少し動いただけでも疲れてしまう程に体力がなかった。
だが今は体力がどうというよりも、精神的な疲労の方が大きい。
「――ヘイセル。ヘイセル、何処にいるの?」
アリスは先程出会った白いウサギの名前を呼ぶ。
しかし案の定返事はない。
やはり夢だったのかとも思うが、例え夢であってもそれは未だ覚めていない事はアリスにはよく分かっていた。
何故ならアリスは入院服ではない恰好をしている。
お洒落なのかどうなのかは分からない深紅のエプロンドレス。
そして同室の病院のベッドには入院患者が一人もおらず、また病院内だというのに医師や看護師、見舞いの人や他の患者の姿も一切気配がない。
現実ではない現実の空間。
アリスは今、夢の世界に閉じ込められていた。
「なんなのよ、もう」
考えるのも疲れ、どこか歩き回って調べてみようという発想もないアリスは、そのまま馴染み深いベッドに身体を沈めてみる。
あまり良い思い出のないベッドだが、不思議と寝心地が良い。
横になると同時に急激な眠気に襲われた。
「――ん、眠い」
瞼が重くなって目を閉じると、アリスはすぐさま眠りに落ちた。
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