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サーレルは目の前に現れた三つの内の中央の扉を開けた。
「――病院?」
扉の先は、どこかの病院の廊下だった。
「ビュール中央病院か?」
サーレルの住む街の一番大きな病院の名が真っ先に浮かんだ。
確信はないが、病院といえば一番最初に思い浮かぶのがそこしかなかった。
或いは別の街の別の病院かもしれない。
訳が分からないといった表情で頭を掻く。
考えていても仕方ない、とサーレルはとにかく病院の中を探索してみる事にした。
廊下を大きな足音を立てながら大股で通っても、誰にも文句を言われない。
忙しなく動き回る看護師や医師の姿はどこにも見当たらず、入院患者や見舞い人の姿まで無いのはやはり異常だ。
ここはどこまでも異世界。
どれだけ現実のものと酷似していようとも、非現実的な空間の中の一つの風景でしかない。
だがサーレルの日常とは馴染みがなくても、現実にある場所であるのは精神的な意味でも少し有難い。
あの気味の悪い地獄のような場所を歩き回るよりはよっぽどマシだ。
人の形跡が全くない以外は特に変な所はない。
備え付けの電話をかけようとしたが、繋がらない。
患者の為に設置されているテレビも映らない。
サーレルはナースステーション通り過ぎて上階へ上がる階段を登る。
上ってすぐ近くの病室を調べてみたが誰もいなかった。
その正面の病室にも誰もおらず、希望が薄いながらもサーレルは一番奥の病室のドアを開けた。
そして一瞬、我が目を疑う。
その病室の角のベッドの上には一人の少女が眠っていた。
――まさか!!
サーレルは咄嗟に銃を取り出して足音を立てずにベッドに近付く。
そして顔を覗き込んだ。
「――違う」
彼女の髪はあの少女と同じ金色だったが、あの少女よりも髪が長く肌が青白い。
そして何よりも右の目元に黒子がある。
小さな一つの点でしかないが、決定的な違いだった。
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