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そこら中に赤い色が飛び散っている。
私の手も、指も、爪の中さえも。
顔は勿論の事だが、髪も服も足元も、真っ赤に濡れていた。
部屋も大分汚れてしまった。
そう自覚した時、独特の臭いがツンと鼻を刺激した。
ああ、私は今までこの臭いを感じ取っていなかったのか。
人体とは不思議だな。いやこれは脳の問題か、などと、私は凡そ場違いな事を考えた。
「――くさい」
一度臭いを自覚すると我慢出来ない程に臭くて臭くて堪らない。
水が滴るような音が耳を擽るのも不快だ。
嗅覚も聴覚も、どうやら麻痺していたようで、こんな事なら気付きたくなかったとさえ思う。
眩暈がして少しよろけると、靴が水を弾く音がした。
床は濡れている。
いや、まだ濡れたばかりだ。
「――あれ、何だろう。凄く、眠い」
急な立ち眩みは睡魔のせいであると認識した。
欠伸をして目を擦ると、更に眠気が襲ってくる。
手に持っていた物を邪魔になったので投げ捨てる。
金属物が落ちた音がした。床か壁にでもぶつかったのだろう。
もう何もかもがどうでもいい。
私はもう、私を縛る全てから解放されたのだ。
全ての思考を放棄して、部屋を出て廊下を通って自室へ向かう。
階段を上がってすぐの部屋のドアを開けると、私は真っ直ぐにベッドへ向かい、倒れ込むように横になる。
瞼が重い。
いや、全身が鉛のように重かった。
もう意識を保っている事すら難しい。
私は――。
目を閉じるとすぐに、眠りに堕ちた。
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