目覚めた少女と暁の世界

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しかしそれにしては少女がウサギについて語る時に、怯えた様子や不快な感情を示す素振りが見受けられない。  あれとはまた別の白いウサギが存在するのだろうか。 「そしたら私の、私が入院している病院の病室にいたの」 「君が入院している? 君はここの患者なのか」 初めて会った人間は、どうやらこの病院の関係者らしい。  しかし入院していたにしては、服装が似つかわしくないように思う。  まあ人の趣味にとやかく言うつもりはないが、それにしも、だ。 「はい」 アリスは素直に頷く。  サーレルはうーんと唸って考え込んだ。 「刑事さんはどうしてここに?」 「ああ。俺は――」 彼女から掛けられた問いに、今度はサーレルが白いウサギが現れた所から一部始終話して聞かせた。 「――それで、その扉を開けたらこの病院の中だったんですか?」 刑事の話を聞き終えた後、アリスはそう聞いた。  ああ、とサーレルは頷く。 「変な話ですねぇ」 アリスは顎に手を当て、うーんと唸る。  どこか子供っぽい印象を与える娘である。  入院患者という事だし、何やら複雑な事情があるのかもしれない。 「えっと。とりあえず、サーレルさん」 「ん?」 「ちょっと着替えたいんで、部屋から出て貰っていいですか?」 着替える。という単語に少し違和感を感じる。 「替えの服があるのか?」 ここは病院だろう、とでも言いたげなサーレルに、アリスは頷いてベッド脇の棚の方へ顔を向ける。  病室に備え付けられた棚にはアリスの私服や生活用品が入っている、筈だ。  体調がいい日なんかは入院服から着替えて、病院の庭を少し歩いてみたりも出来るのだ。 「それは君の趣味じゃなかったのか」 それ、とは当然深紅のエプロンドレスの事である。 「違いますね」 アリスは首を左右に振る。  少々首を傾げながらも、素直に言われた通りサーレルは病室から廊下に出ていってくれた。 「アリス」 サーレルがいなくなった病室で、アリスの前に突如ヘイセルが現れた。 「んんんっ!?」 アリスは突然姿を現した彼に驚いて言葉にならない声を上げる。 「ち、ちょっと! 急に出てこないでよ! それに私、今から着替えるから出てって!」 アリスが捲し立てるようにそう告げると、ヘイセルは悪戯っ子のような笑みを浮かべて両の手を頭の後ろで組むとこう言った。 「その服は脱がない方がいいぜ。アリス」
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