血塗れの少女と異世界の扉

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少し彼女から目を逸らしたくなって隣に立つ部下に視線を向けると、彼はマナに見惚れていた。  この男は優秀ではあるのだが、どこか抜けている所がある。  取り調べ中に被疑者の容姿にうつつを抜かす刑事がどこにいる。  ましてや相手は未成年だ。 私は溜息を吐いて立ち上がり、逆上せあがった部下の頭を殴りつける。 「あいたっ!」 そんなに強く殴ったつもりはないが、彼は何とも情けない声を出す。 「な、何するんですかサーレルさん!」 部下は少し涙目になりながら頭を押さえて、私に抗議してきた。 「馬鹿かお前。取り調べ中に被疑者に見惚れてんじゃねぇ」 「み、見惚れてなんかいませんよ!」 部下のカマルは反論してきたが、図星を突かれたように焦って顔を赤らめている時点で説得力はない。 「うふふ。刑事さんって面白いのね」 くすくすと笑うマナに、私とカマルは慌てて居住まいを正す。  調書を取る女性警官の白い視線が突き刺さるのを感じる。 ――何やってんだ。 私は何かを振り切るように頭を振って仕切り直しをする。 「――俺が聞きたいのは、何故殺したいと思ったか、だ。お前の言う通り、人を殺す決心をした、或いはにそう思うからこそ、人は犯行に及ぶのかもしれない。だが、そう思うに至る理由は必ずある筈だ。我々が言う動機とは、それだ」 「最初からそう言ってくれればいいのに」 にい、と微笑むその顔は、目の奥に冷たさを宿した作られたものだった。 全体的にどこか作り物らしさを醸し出す少女は徐に立ち上がると、いきなり服を脱ぎ始めた。 私もカマルも、彼女の突然の行為に非常に驚く。 「な、何のつもりだ!? おい、止めさせろ!」 「ちょっと、やめなさい!」 私が慌てて立ち上がると、それまで座っていた椅子がけたたましい音を立てて倒れた。 女性警官に止めるように指示するが、数秒遅く、マナは服を脱ぎ捨て三人の前で下着姿になる。 それを見て、私達は息を飲んだ。 その体は、傷だらけだった。  思わず顔を背けてしまいそうな程に、痛々しい傷痕が全身に広がっている。 彼女のこの傷については報告が上がっていた。  彼女にシャワーを浴びせた際、その時付いていた女性警察官が目撃していたのだ。  だが話に聞くのと実際にこの目で見るのとでは、抱く印象は全く異なる。 彼女は私の想像以上に過酷な環境にいたようだ。 「これが理由」 ――虐待。 まるでその光景を目撃したかのような錯覚に私は陥る。 「わ、分かったから服を着ろ!」 私はハッとして彼女に背を向ける。  あまり長時間見るものじゃない。 少女はそんな私を揶揄うように笑いながら、女性警官によって服を着せられた。
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