血塗れの少女と異世界の扉

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「何だ――ここは。何が、起こっている」 そこはまるで地獄のような光景だった。  空は赤黒く渦巻いていて、空気は澱み、地面は何かの肉片のようなものがびっしりと敷き詰められている。 否――この肉片自体が地面なのだ。 吐き気がする。  物凄い悪臭に思わず手で鼻を覆う。 「この、臭いは――」 それは現場を経験した刑事なら一度は嗅いだ事のある臭い。 「人間が腐った臭いだ」 辺りに立ち込めている悪臭は死体が腐った臭いで間違いない。  この地面となっている足元の肉片こそが、その正体かと思うとゾッとした。 「なん――なんだ。こりゃあ」 つ、と汗が頬を伝うのを感じたその時。 ガァァァアアア――。 サーレルは心臓が跳ね上がる思いで辺りを見回した。 ――なんだ、今のは。 とてもこの世のものとは思えない咆哮。  それはまるで、映画に出てくる怪獣のような叫び声だった。 「――おいおい、マジかよ。酒で頭がやられちまってるのか?」 サーレルは冷や汗を流し、頭を掻き毟って生唾を飲み込む。 「とにかく、とにかく一旦戻って、状況の整理を」 サーレルは震える身体を叱咤して、入ってきたドアの方を向く。 しかし、そこにはもう戻る道など存在しなかった。 「は? なんだ。どうなってやがる」 サーレルの頭の中はもうぐちゃぐちゃになっていて、まともな思考も冷静な判断も出来なくなっていた。  顔が引き攣って、異常な状況に笑いまで込み上げてくる。 「いらっしゃいまっせぇぇ」 その時、突如後ろから声が聞こえてサーレルは勢い良く振り返った。 「お一人様でございま~すかぁぁ?」 そこにはウサギがいた。  大分顔の崩れたウサギだ。  目の焦点がまるで合っていない。 その奇妙なウサギは何故か燕尾服を着ていて、メガネもかけている。  大きな懐中時計をぶら下げていて、しきりに時間を気にしているような様子をわざとらしく演じている。 そして何より、ウサギは二足で立っていた。  全長がサーレルとほぼ同じだった。  頭はサーレルよりも大きく、薄気味悪い崩れた顔が、吐息を感じる程に近い。 「暁の世界へようこそいらっしゃいま~したぁぁ」 全身から血の匂いを放っていて――言葉を介した。 「うわああぁぁっ!!!」 サーレルの叫び声が木霊した。
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