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「おい。おい君」
サーレルはあまり力を入れずに少女の肩を揺さぶって声をかける。
無骨なサーレルが触れれば壊れてしまいそうな程に繊細な少女の身体は、肩に触れるのすら躊躇われる。
ましてや寝ている少女に気安く近寄り声をかけるなど、もう五十代に差し掛かるサーレルからすれば世間体的な意味でも避けたかった。
だがこのような特殊な状況下ではそんな事も言っていられない。
何度か声をかけて肩を揺さぶると、少女は微かに眉を顰めて身動ぎをする。
「――んん」
声を漏らし、少女は寝返りを打つ。
昏睡状態や死んでいる訳ではないようだ。
「おい! 起きろ!!」
最終手段とばかりにサーレルは軽く大声を出してみる。
「ふゅあっ!?」
少女は驚いて目を開け、勢いよく体を起こした。
瞳が緑だった。やはりあの少女とは違う。
「――な、なに?」
少女は困惑した様子で目を擦り、ベッドの傍に立つ男を見る。
時間と共に視界と頭がはっきりとしてくる。
「あ、だ、あなた誰!?」
少女は身体を隠すようにシーツを引き寄せると、なるべくサーレルから離れようとベッドの端に逃げる。
「安心しろ。俺は刑事だ」
サーレルは警察手帳を取り出して見せた。
「――刑事? どうして刑事さんがここに?」
手帳を見て、少女は若干安心したように息を吐いた。
彼女の表情、ちょっとした所作、どれを取って比べても、サーレルが探している少女とは似ても似つかない。
だが、不思議と顔の造形が似ている。
「どうしてかって? そんなの俺が聞きたいね」
サーレルは溜息を吐いて、少女の隣のベッドに腰かける。
「俺はサーレル・ノルシース。君は?」
「――アリス」
サーレルが隣のベッドに座り少し距離が出来たので、アリスは微かに安堵したようにベッドの端から真ん中へと位置を戻す。
「アリス。君は何故ここにいる?」
咎めるでもなく、純粋な疑問としてサーレルは少女に問う。
なるべく相手を威圧させないように気を遣うのは苦手なのだが、サーレルは今全神経を集中させていた。
「え、っと。私はヘイセルっていう、白いウサギを名乗る人に連れてこられて」
少女の返答の中の「白いウサギ」という単語に、サーレルはピクリと反応を示す。
あの気味の悪いウサギはそんな名前だったのだろうか。
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