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「ふふふ。刑事さん可愛いのね」
――何が可愛いだ。
私はそう思って舌を打った。
隣に立つカマルを横目で見ると、彼はまるで電池が切れた機械のように固まって、呆然と少女を見つめていたので、今度は容赦なく殴っておいた。
「――あー。ンンッ。つまり母親からの酷い虐待に耐えられなくなり犯行に及んだ。そういう事だな?」
椅子を起こし、咳払いを一つして私は改めて確認する。
今まで色んな被疑者を見てきたが、どうにも今回はやりにくい事だらけだ。
「虐待されて、殺したいと思ったから殺したの」
少女は楽しそうに笑いながら訂正をする。
「――母親からの酷い虐待に耐えられなくなり、殺したいと思ったから殺した。よく分かったよ」
満足そうに頷く彼女には、後悔も反省もまるで感じられない。
むしろ喜んでいる。
そして楽しんでいる。
「ねぇ。刑事さん。私からも質問していい?」
少女は小首を傾げて無邪気に尋ねる。
「――なんだ」
私はぶっきらぼうに答えた。
「私って狂っているのかしら」
その質問には流石に言葉に詰まる。
正常か、異常か、どちらかと問われれば、この少女は異常である。
しっかりとした言葉を発するし、言ってることも概ね間違ってはいない。
だが快楽殺人鬼という訳でもなく、未成年だから大した罪にはならないと高を括っている訳でもなく、人生を諦めて開き直っている訳でもない。
だというのに、人を殺してこんなに平然と笑っていられるのはどう考えても異常だ。
――だが、狂っているかと言われれば。
良く分からない。
私にはその判断が出来ないが、仮に出来たとしても馬鹿正直に「お前は狂っている」などと口に出来る程、私は分別がない訳ではなかった。
「――どうしてそう思う?」
代わりにそう尋ねると、少女は口許に手を添えて笑った。
「だって刑事さん。さっきから私のことそういう眼で見ているもの」
そんなつもりはなかった。だが顔に出ていると彼女は言う。
「そ、そうか?」
予想していなかった指摘に思わずどもってしまった私に、少女はにっこりと笑って頷いた。
そしてマナは私から目線を外し、先程から私の隣で固まっているカマルに顔を向けると、私にしたのと同じ問いを投げかけた。
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