少し欠けた月

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少し欠けた月を あなたは「満月だ」と言った。 その瞬間 夜空は僕達だけのものになった。 優しい風の中で 思い出すのはあなた。 傷付いた心の中で 思い出すのはあなた。 振り返って確かめる確実な過去を 曖昧な今に重ねて軽く自分を責める。 つまずいた時に 会いたくなるのはあなた。 少し欠けた月の夜 会いたくなるのはあなた。 こうして僕等はいつも それぞれだけの夜を それぞれだけの世界を それぞれだけの力によって手に入れて それぞれだけの力によって引き裂くの。 きれいな夜に あなたを浮かべては眠る。 きれいな歌に あなたを乗せては眠る。 あの頃の風が窓を鳴らして僕を呼んだ カーテンの隙間から覗いた そこには輝く 少し欠けた月 少し欠けた月が 満月だと思った時 あなたを思い涙を流した。 はだしで見上げた月に あなたを思い涙を流した。       今宵はもう 僕等のものではない。 そうであれば誰のものでもない。 涙の意味を心に 野良夜を越え、 僕は眠る。      
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